巻ノ二十二 目指すは酪農家! 失うモノの大きさに、彼は会社と縁を切る!
名のある大企業で、良い給与と良い人間関係に恵まれていたK藤さん。
でも会社の論理は時に大事なものを否応なしに奪います。その結果、彼が志すようになった道とはなんなのか……。
北海道の大自然を目指すことになった彼の、悲しい悲しい体験談です。
別れはある日突然に……
やっと東京から大阪に戻ってくることができたと思ったら、言い渡されるのは「1カ月だけ行ってくれ」と東京出張ばかり。毎月毎月それが繰り返されるもんだから、生活の拠点は大阪の実家に移したものの、結局は東京で生活しているのと変わりません。
それでも週末には結婚を考えてる彼女と会うために大阪へ戻り、実家への仕送りも欠かしません。正直お金は出ていくばかりですが、いつかは大阪で落ち着ける日がくるはず……と、そんな日を夢見るK藤さんなのでありました。
ところが会社からは、さらに無情な指令が下ります。
「今度は2年間、東京で勤務するように」
東京から引き上げてくる時に、家財道具は一式処分してしまいました。そうして帰ってきた大阪です。
でも、そこでいくらも過ごさないうちに、また家具一式を買いそろえて、東京暮らしをはじめるの? そんな金ないよ?
そんなK藤さんの訴えを、会社側は「なんとかしろ」と冷たく突き放しました。もうなんとかするには、「彼女との結婚資金、もしくは老後の蓄え」と積み立てていたお金に手をつけるしかありません。
「もう疲れちゃった……」
K藤さんが預金を取り崩して東京に引っ越した数カ月後、10年来つきあってきた彼女から、彼はとうとう別れを告げられてしまうのでした。
オレの人生はオレのもんだ!
彼女が去り、金欠生活が続く中、「オレ、この仕事を一生続けていけるのかな?」とK藤さんは考えました。
私生活を犠牲にして、大事な人も失って、それでもこの職を選ぶ理由ってなんだろう……。
K藤さんは、自身の働く目標として、「人の助けになる仕事がしたい」と考えていました。さらに加えるなら、「一生続けていける仕事がよい」「転勤や長期出張のないところで、私生活の充実も図りたい」「自分の住む地域に役立つ仕事がしたい」というあたりが、大事な要素です。
しかしこの仕事は、どう考えてもこれに当てはまるようには思えません。
そんなK藤さんの脳裏に、かつて行ったことのある北海道旅行の風景が浮かびました。
「酪農っていいな」
その旅行の時、彼はそんな風に思ったことがあったのです。
きっかけは単なる興味でしかありませんでした。しかし実際に「酪農ヘルパー」という仕事を2日間体験しに行くに至り、やがてその思いは「就職したい」というものに変わります。
……それから3年が経ちました。
この間彼は「本当に後悔はないか?」と自身に問いかけながら過ごしていたといいます。
そして今、「まずは酪農ヘルパーという形で3年ほど修行しよう」「そしていつかは酪農家になろう」……そう心に決めた彼は会社を辞め、酪農ヘルパーを統括する協会に身を寄せて、その道を歩みはじめたのでした。
すごい! その踏ん切りはすごい!
「酪農家」という言葉を目にした時、最初に思ったのがそれでした。
でも、酪農家という響きに囚われないで見れば、この体験談の一番大事なとこって、「自分の幸せは会社じゃなくて自分で考えなきゃ」と結論を出したことじゃないかと思うのです。
自分の幸せは自分で決める。
自分の人生は自分で決める。
そんな当たり前のことを再認識させられた経験談でありました。
■著者プロフィール
きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/
■著書紹介
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